44いつものようにこっそりと惑星を抜け出して、地球へと遊びに訪れていた。家族のように大切に思っている人間に会う為だ。これも何度目かのことで、繰り返している内に地球へ行くことにも慣れてきた。この宇宙船は、惑星外用に作られているものだ。久しぶりに会う君は、人間の年齢でいう25歳になっていた。つい先日まで18歳だった気がしたのにな。人間の成長速度というのはあまりにも早いと思わざるを得ない。
無事家につき、いつも通り再会を喜び合い、積もる話もあるとそのまま部屋に案内された。その先で、ある物を渡された。
「……なんだーすげえ嬉しいよ。まさかお前に、そんな人ができるなんてさ」
「本来ならもっと前からお前に……一番に伝えたかったんだ、だけど」
「おっきくなったね」
「当たり前だ」
「なに、地球の時間に換算したら四年くらいかなあ。そんなくらいしか経ってないよ」
「七年〝も〟経ったんだ、あれから……色々変わったんだ」
「そっか、そうだよな」
人間の時間と俺の住む惑星の時間の感じ方や、流れ方は全然違うのだと、ここでようやく気付いた。
二階へ続く階段を登りながら、たわいもないやり取りをしていた。座りながらゲームでもしようって話になっていた時だった。
コンコンとノック音が響く。この時点で違和感に気付くべきだったのかもしれない。
君は、彼女が帰ってきたものだろうと思ったのだろう。
「開いてるよ」そう言いながら咄嗟に立ち上がって部屋を開けた。しかし、そんな期待とは裏腹に全く違う人物が部屋の前に立ち尽くしていた。
その人物は、一瞬にして部屋の中へと侵入していく。そのまま目の前にいた人物は、酷く冷静に物怖じせず何の躊躇いもなく君を刺す。追い討ちをかけるように後頭部や、腕、手の甲、顔を、何度も、何度も何度も何度も。何かを話しかけていたが、理解できない単語の羅列のようだった。膝から崩れ落ちて、床に倒れ込む君を目に焼き付けるように真っ直ぐ。その手に所持していた物は君が先程手料理を振る舞うと言って料理の際に使用していたのと同じ形状の、つまり食材を切るための地球の道具。視界を覆い尽くす赤色。気付いた頃には遅かった。それが起きてしまった。ついさっきまで話していたのに、君がこんな目に遭うなんて誰が予想できただろう。重力に逆らうことなくボタボタと水滴が滴り落ちる音だけが部屋に響く。シンと静まり返るほどの静寂だったからだろうか、嫌に大きく感じた。赤色。水滴。それは全て君の体内に流れている血液だった。胸部を始めとして一瞬の内にして白いシャツを真っ赤に染めあげ、綺麗に掃除されたばかりの床に水溜りを作る。
声も出せない程の致命傷を負ったのか、声を上げられずに苦しむ君の姿を見て、今起きている現状が明らかに良くないことだと頭が理解した。
なあ、唯月が何したって言うんだよ。急いで君の傍に駆け寄るが、会話すらまともに出来ない状況でヒューヒューと必死に息をしていた。何かを言おうとしているのは分かる、でも話せば話すほど口からごぽ、と塊のような血を吐き出す。喋ろうとすればするほど、口から逆流した血液が溢れていく。「大丈夫、絶対、助けてやるから……」ゆっくり仰向けにさせ、胸部を露わにさせると、深く抉れた痛々しい傷跡が見えた。人間の傷口が塞がる速度はとても遅い。その間にも感染症などを引き起こすのだと。布の一部を千切って上から圧迫するように傷口を塞ぐ。すると指が想像よりも簡単に体内へと押し込まれていく。恐ろしくなって手を離す。押さえる力が強すぎてはいないか。人間の肉体は繊細なんだ。こんなに乱暴に扱って良いわけがない。震える腕を抑え込み、触手を使って血管を探す。その間にも血が止め度なく溢れ続けており、その時の俺は不味いと思ったのか、ぎゅっと縛り上げて、血の巡りを妨げようと試みるも。「だめだ血が、血が、止まらない、」最善を尽くそうとすればする程にどんどん赤色が広がっていくようだった。
大丈夫、落ち着け。そう胸に手を当てて何度も自分に言い聞かせた。所詮人間の真似事。同じ場所に心臓なんかない。それなのになぜだろう。君が刺された所と同じ場所が痛むのは。全身が冷えていくような感覚になるのは。
知らなかった。人間の血がこんなに赤いだなんて。知らなかった。海が人間の血で出来ていたなんて。見慣れていた赤が、こんなにも恐ろしい。「まさか……な訳ないかさすがに。」「あの、このままじゃ本当に死んじゃうんだよ、そこで見てないで、一緒に助けてやってくれよ」藁にも縋る思いで言うが、当然無視される。俺は一体何をしているんだろう。暗いトンネルの中にいるようだった。無駄に思考を巡らす程に相手の体温も呼吸すらも弱まっていくように思えた。
思えば、人間が倒れてるところを見たことなかった。正しい人間の治し方なんて何も分からなかった。無知な自分に怒りを覚え、同時に後悔した。
「ああ……どうしよう。わからない……、なにも何も分からない……い、嫌だ、返事してよ。なあ戻ってきてくれよお願いだからさ」お願い、死ぬな。生きろ、生きろ。そう祈るように言葉を何度も繰り返す。足りなくなる。思い出す。俺の血を分け与えても、穴からだくだく溢れて流れ出てくる。
ここまで僅か数分の出来事。でも、この時間だけは今まで体験した何よりも長く感じた。酷く惨めだった。
自分の選択が、多くの選択肢を見捨てていたことに気付きもせず。いや、気付きたくなかった。そんなことしてももう無駄なことなんか。
その時、鈍い痛みが背中に走った。鋭利な刃物が貫いて、そこから自分の血液が流れていた。「一緒に行けよ、地獄。」刺された。ただそれだけ。それなら別にどうでもいい。自分の傷口の確認なんかしてる暇があるなら応急処置を。もはやなり振り構っていられない。やり返せば良かったんだろうな。でも何も出来なかった。仕返す気力もなかった。傷程度ならいつもすぐに塞がる。本来だったらそのはず。でも、それなのに今回ばかりは上手く再生されなかった。おかしいな。視界に赤に青紫が混じって頭に鈍痛が走り世界が傾いていた。……違う、俺自身が床に突っ伏していただけか。肉体だけが置き去りにされたまま駆け巡る思考。あっという間に終わってしまった。このまま俺もお前と同じになりたかった。薄れていく意識の中で駆け巡る映像はお前と過ごした楽しい思い出ばかり。目の前に血塗れになった結婚式の招待状を見る。……今でも昨日のことのように鮮明に思い出すよ。俺にあの招待状を渡してきた時のお前の顔を。今まで見た事もないくらい幸せそうだったな。
なのに俺はそれに相反していた。上手く笑おうとしてた。でもきっと、上手く笑えてなかった。
お前が俺に教えてくれた。〝人生を共に生きたいと思える人に出逢えた〟んだって。
細かなニュアンスは違うかもしれないけど、地球にはそんな奇跡みたいな存在に出逢えたことをお祝いする習慣がある。
それを聞いた時、ようやく理解した。理解するにはあまりにも遅すぎた。それはきっと俺にとってはお前で、そしてそう思っていたのはどうやら俺だけだった。ずっとそばにいたのに、君にとってそう思える人にようやく出逢えた、という事実がなによりもの答え合わせになったというだけのことだった。
それっておかしいよな。身体のどこかに穴が空いたみたいだった。いくら空いてもどうにか一人で塞いできたけど、唯一この穴を塞ぐ方法だけは今でもわからない。そして誰かの穴を塞ぐ方法も。〝このままずっと変わらないままでいられたら〟
という傲慢すぎる思考。変わらないものが永遠に続く気がしていたあの頃。今思えば、そんなこと無理で、人間に与えられた時間は短くてあっという間だ。縛ることなんか出来やしない。そんな酷いこと。
お前は言ってくれたんだよ。こんな、俺みたいな奴に『それでもお前は俺にとって一番の友人だ』って。お前が俺を人間にしてくれたんだよ。今度は上手く笑えるようにするから。笑顔の練習もするから。だから、もう一度会いたいよ。それにお前にさ、こんな顔をさせることのできる人なら良い人なんだろうからさ。お前がそばにいてあげなきゃ、その人だってすごく悲しむよ。俺だってすごい悲しいよ。お前がいないと寂しいよ。そこに俺は存在しなくとも、お前が幸せな夢見れたら、俺はいいよ。だから。「俺、俺も、お前の、結婚式に、連れて行ってよ」数分が経った頃、俺は何事もなく目を覚ました。傷口は元通りに塞がっていた。突っ伏していた身体を起こすと、床に滲む血液は赤だけになっていた。触れるとそこだけ冷たく、気付いた時には目の前にいた人物は姿を消していた。こんなこと誰が望んでいた。どうしてこんなことになってしまった。少なくとも俺は望んでいない。まだ諦められないまだ間に合うかもしれない。「唯月」名前を呼ぶ。反応はない。
頬に手を添える。反応はない。
急いで一階に行き、ご飯を取りに行きご飯を食べさせてあげた。
口から溢す。
名前を呼ぶ。反応はない。
繰り返す。何もない。何もなかった。
何も。
「……俺、何してんだろ。」この時初めて人間の死に触れた。眠っているだけだと思い込みたかった、どうしようもない自分が部屋に一人取り残されていた。この先に少しの希望もないことを。俺は生きてしまって、お前は死んでしまったことを。俺とお前は全く違う生き物だということを思い知らされたことを。それはきっと、俺が化物であることをお前が忘れさせてくれてたからだ。「お願いだよ、置いてかないで……」返事は返ってこない。っていうのが俺の過ち。滑稽に見えるでしょ。
ここで泣いてる馬鹿が俺。そしてこれは全部俺にとって過去の出来事だ。俺という、どうしようもない惨めな存在がいた。隠す必要がないから、初めに知っておいて欲しくてさ。
今となってはすぐに分かることだけど、一刻も早く救急車を呼んでいれば。正しい応急処置に止血方法を知ってさえいれば。地球のことを人間のことを、もっと理解していれば、こんなことにはならなかった。それに、刺された理由もだ。
今となればそうだ。人間を治すことができるのはお前じゃなくて人間だ、なのに。
壊すことは簡単で、救うことができない。
この触手は、誰かを救う手にはなれないのだと。
「馬鹿だったなあ。」もう何度後悔しても戻ってこない。これが報いだというのなら、俺は。44話 《00世界》TRUE END 託される運命公開  2024.10

45『お前はさみしがり屋だからさ、心配。』『お前見てるとさ、ぎゅってしてやりたくなるよ。』『俺はどこにも行かないよ。』『ずっとお前の傍にいるよ。』『どんなに遠く離れた場所にいっても必ず会いにいくよ。』これは幻覚なのか、幻なのか。
聞き馴染みのある声が暗闇から聞こえてくる。
「お前なんか」一緒になんかいられないだろ。
18歳になればお前は俺を置いていくだろ。
「……お前、なんか……ッ、」お前がいなくなるのは必然なんだろ。この世界で生まれたお前は、もう。
今更知ってももう遅いよな。
それをずっと隠してるのはお前の方なのに。だから、俺が、お前が死ぬ時になったら俺もそっちの世界に連れて行ってくださいって、お願いしたんだ。……なんて、そんなことできるわけないだろ。「…お前なんか、…大嫌いだ。」

────お前を見てるとさ、
俺が知らない間にどこか遠くに行っちゃうような気がしたんだよ。
お前ならきっとそれができた。
ずっと、しないでいただけだ。
分かっていた。
なのに。
なんで。
赤。
赤。
目に焼き付くような鮮血が、穴が空いた袋から漏出していくみたいに体内からどんどんとめどなく容赦なく溢れ出ていく。
本当にそんなことするなんて思わなかったんだ。
……ああ、どうして、こんなことになるなんて思わなかったんだよ。
思えなかったんだ。「……は、119番、っ、救急車、」早く、
早く、早く。
出てくれ。お願いだ、
お願いだから。
「……俺を、一人にしないでくれ、」彼は虚な目で、微笑んでいるような気がした。楽しかったね、あの頃は。

これは、偉月が父親から聞いた話。母さんは一度生死を彷徨ったことがあったらしい。
それは俺たち、双子を出産するときだ。
俺たちを身籠ったことを知ったときは泣いて喜んでいたらしい。
父さんが言うに、出産前母さんの容態が悪化して酷く顔面蒼白になっていて、顔だけじゃなく全身に冷や汗を大量にかいていた。手を握っても握り返す力が弱くて、医者に聞く前から明らかに良くない状況に置かれていると悟ったらしい。以前、医者から言われていた。元々、臍帯巻絡を起こしていたり双子の片方が比べて成長が遅いらしかった。生まれてきても低出生体重児で保育器に送られるか、もしくは生まれた時点で亡くなってしまう可能性があると聞いたらしい。それを聞いた母さんは「私の命なんてどうでもいい、どうかこの子たちを生かしてあげてほしい」泣きながら、医者に頼み込んだらしい。
父さんは「君がいないと意味がない」と伝えて、医者も三人を生かす方法を考えてくれていたらしい。
それでも、奇跡的に……俺たちは一緒に生まれてくることができたんだと。必然だと思われていた運命が、必然じゃなくなった時に人はそれを奇跡と呼ぶのだろう。
それでも双子の片割れはやはり予想通り未熟児であった為、医師の指示のもと適切な処置を受け、暫くの間人工保育器に入れられることになった。
ゆっくり時間をかけて成長したが、それでも生まれつき病弱で、内臓器官も健康体の片割れに比べるとあまり丈夫でなかった。
幼少期の頃から度重なる整形移植手術が必要になり、身体中は手術痕でつぎはぎだらけだった。
……それが、俺の双子の片割れ。優真の話だ。

優真は、
昔から、母さんの真似をして俺に世話を焼くのが好きだったらしい。
「いーちゃ、あー、あー」そうやって口に運ぼうとしてきた。「あらあらよかったねえ、いつくん。ふふ、ゆうくんはお兄ちゃんだね」それを父さんや母さんが笑顔で見守っていた。「優は、一体何をしているんだ」
「ままの真似をしてふーふーって、して食べさせてるのよ、ぱぱ」
「優の分なくなっちゃうぞ」
「心配しなくても大丈夫よ、あとでままが調節しますからね」
なにより優真は、両親のどちらとも似ても似つかない容姿をしていた。
両親はそれでも、そんな俺たち双子を同じように大事に、平等に愛してくれていた。
幸せな家庭だった、と思う。
そうだよな、優真。


そうだね。幸せな家庭だったよ。「誕生日おめでとうゆう!」
「いーちゃんも!」
「ねーあけてもいい?」
「うんはやくあけて!」
毎年、誕生日になると俺たちはこんな遊びを考えるようになったんだ。
両親には内緒で片割れが好きそうなものを頼む、その後で内緒でプレゼント交換をする、というのが二人の中でお決まりだった。
「……宇宙の本!これ僕がほしかったものだ!」
「僕も!はは。僕たち双子だから、好きなものなんでもお見通しだね」
同じように笑って、同じタイミングで喋る。
確かに俺たちは双子。
「ぱぱもままもきっと優の方が星好きだって思うよ」
「いーちゃん星好きだけどゲームも好きでしょ」
「二人だけのヒミツ!」
「二人だけの?いーちゃんだけがゆうちゃんの知ってるってこと?」
「うん」
向き合うと分かる。笑ってる顔も、声も、何もかもが一緒のように感じてた。ただほんの少し歪んだ鏡だっただけで。「ゆう」
「なに」
「これから先もずっといっしょにいられたらいいね」
「うん!ずっといっしょだよいーちゃん」
似てないことなんかどうでもよかった。
あの時は、同じ時間を過ごして、同じように成長する双子だった。


そんなことを何年も続けて高校生になる頃にはバイトでお金を貯めてそれぞれに誕生日のプレゼントを用意するようになった。「今日誕生日、だろ。生まれてきてくれてありがと、おとーと!」
「俺はお前の弟じゃない、ほんの少し先に生まれてるからって兄貴面するなよ。」
「ああ、わかったよ。」
「それじゃあ毎年のやつ」
「まあ」
「え、やった。無いかと思った」
「……あげなくていいか」
「やだやだ、ちょうだい」
「怠いな」
そう言って包装紙に包まれたプレゼントを渡せば、嬉しそうに受け取る。「なあ我慢できない、開けてい?」
「どうぞ。……って毎年ばか丁寧に開けるよな」
「とっときたいから」
「包装紙なんてとっておいて何になんだよ」
「別にいいじゃん。……あ、これ新作ゲームのカセット?めっちゃ欲しかったやつなんだよ!対戦が面白いやつ!なあ帰ったらすぐ一緒にやろうよ」「また今度な」
「なあ俺のも早く」
「はあ」
そう目で催促され、包装紙をビリビリに破く偉月に不満の声を漏らす優真「そんなビリビリに破く?唯月って開けんの苦手なの」
「……別にいいだろ。……って、なにこれ。」
「あれ、あんまりお気に召さなかった?家庭用プラネタリウムだよ、可愛いよね。星好きだろ、ほら、宇宙図鑑ボロボロになるまで毎日見てたじゃん」
それを聞いた途端、偉月の表情が一変する。「お前、俺のこといつまでも子供だと思ってんだろ」
「え、」
「だから昔から言ってるだろこんな偽物のホログラムのしょぼい星じゃなくって、もっと本物の星が良いんだって。だからそういう場所にもいかないって話したのに。お前、俺の話なんか一切覚えてないだろ。」「本格的な望遠鏡は高いし、安いやつもらっても使い物にならないかもしれないだろ。」
「まあ、……いいけどさ。」
少し不服そうな顔をしてる彼の横で優真が楽しそうにこんなことを話す。「なあ唯月、俺さ、18歳の誕生日に父さんと母さんにプレゼント渡そうと思ってるんだ。俺を産んでくれてありがとうって親孝行したくてさ」
「へえ、いいんじゃないか。」
優真の言葉に、少し眉を顰める。「小さい頃から身体が弱かったみたいじゃん。その頃の記憶あんまり覚えてないけど……日常の一部っていうか、当たり前になってて忘れてたけど、今でも薬飲まなきゃいけないじゃん」「免疫抑制薬だろ」「やっぱり、両親にはたくさん迷惑かけちゃったし。それに俺、いつまで生きられるかわかんないからさ。渡せなくなってからじゃおせーよなって思ってさあ」「お前な、迷惑だなんて別に思ってないだろ。」
「んじゃあ、感謝の気持ちで。偉月一緒にどう?」
「俺は忙しいから」
「あ…」
「お前はいいよな。昔から、両親にすごく心配されてただろ。まあ、それくらい父さんも母さんもお前のこと、すごく大事にしてたんだからさ。」「……もちろん分かってる。父さんと母さんには感謝しなきゃな。でもさ俺って、容姿全然似てないから拾われた子なのかと思っちゃってたよ。髪染めよっかななんて思ったこともあったし」「髪の色がたまたま違うなんてよくある。俺なんか地毛なのに教師に染めるなっていまだに注意されるんだから」「昔から双子だって思われないんだよな。」「まあな」「お互い苦労してるよな。でも、こうやってさ、なんでも相談できる相手がいてよかったって思うからさ。俺、唯月がいてよかった」俺はそう分かってるつもりだった。けど、どんどん好きなものが分からなくなっていった。昔みたいに当たらなくなっていた。当てずっぽうの日々が続いていた。どんどん同じじゃなくなっていた。ゆっくりとずれていくようだった。どんどん溝が広がっていく、感覚。それでも、誕生日だけは変わらなかったから。これから先も、ただ、なんとなく続くと思っていた。そう、俺だけが。

「あのさ、少しいいか?」「うん?  偉月、どした?」優真の前に偉月はいた。偉月は、彼を見るなりわざとらしくこんなことを聞いた。「誕生日プレゼントは、何あげたら喜ばれると思う」それを聞いた優真は、途端に嬉しそうに不器用に紡いだ言葉を返す。「え、もうそんな時期?そういや今週か。時間経つのって早いよなあ。偉月毎年面倒くさそうにしてたのに楽しみにしてんだ。可愛いところある。」そう喜んでる彼を横目に、突き放すような一言を彼に伝えた。「……違う。彼女ができたんだ。俺が相談してるのはその子への誕生日プレゼントだ。」そう遠回しに、偉月はそう何度も突き放す。それを聞いてようやく察した優真の顔から笑顔が消えた。「ああ、」
「まだ先なんだけどな。」
「そうなんだ。」
「……よかったね。」優真はそれを聞くと明らかに動揺したような、先程とは打って変わって、不自然な笑顔を見せる。そうしてぽつりと言葉が漏れだしてしまう。「どうして今まで俺に内緒にしてたの。」それを口にした瞬間、優真はハッとして一瞬、「言ってしまった、」というような表情を顕にするが一度口にしてしまったことはもう、止まらなかった。そこには戸惑いと迷いがあった。目は泳いで言葉は曖昧に、動揺を隠しきれない様子だった。「それって、誰」
「そんなに重要なことか」
「重要なことだろ、」
優真はどくどく跳ねる心臓を抑えながら感情を言葉にした。「恋人ができるのは別にいいんだよ。いいんだけどさ。隠されてると寂しい。俺たちってそんな仲だった?俺にだけは言って欲しかったよそしたらさ、」その一言を聞いて、偉月は遂に深いため息を吐く。そうして、今まで溜め込んでいた不満が爆発するかのように言葉が溢れ出していく。「だから言ってるだろ。」
「偉月、」
「なあ、双子だからって、なんでも共有しなきゃいけないのかよ。」
「ぇ、あ、」
偉月は淡々と突き刺すように、何度も。何度も。「ああ秘密も全部、何もかも共有しなきゃいけない?双子だから何でも一緒にしないといけないのか?いつまでもずっと続けていくのか?双子だから、双子だからとかそんなこともううんざりだ。いい加減にしてくれ。もうこんなくだらないことやめにしてお前も恋人作れよ。いつまでも一緒にはいられないんだから。」偉月の言葉に、優真は立ち尽くしていた。
しばらくの静寂の後で、そうして彼は淡々と、ぽつりぽつりと言葉にする。
「あ、」「そうか、」「……っ、」「なんかさ、俺、」「……俺、変なこと言ってた。」見たことのない片割れの表情を見る。偉月の顔は淡々としてた。「そうだよな、ごめんなさい。」それは、言葉にしてしまったことへの後悔が混じった切ない表情と声だった。そこで初めて、喧嘩をしてしまった。後になって、大きな溝が生まれる喧嘩だったことを思い知った。今までだって些細なことで喧嘩はしてきた。だけど今回は違った。その日をきっかけに、
一緒にいる頻度は減り、会話も無くなった。
登下校することもない。偉月は片割れといた時間を全て彼女と過ごした。全て彼女に費やしてそうして彼は片割れのことなど忘れていき彼女との日々を大切にしていく。なんとなく気不味くて、それで。

そうしてある日、それは起こる。
片割れの部屋のドアをノックして、返事を待たずに開ける。
「びっくりした」
「お前、少しいいか?」
「うん」
「俺の彼女に手出したよな」
「ああセックスした。だから何」
「……」
「でもさ、彼女、ろくでもないよ。よかったじゃん、セックスする前にそれに気付けてさ。」
次の瞬間、鮮血が飛び散り、床に赤い液体がボタボタ落ちる。胸倉を掴んで引き寄せて、そうして、何度も、何度も何度も何度も、拳で顔面を殴り続ける。「……でお前さ、言いたいことはそれだけか?」
「……、はは」
「さっきからずっと、何笑ってんだよ。何が面白いんだよ。謝れ。早く謝れよ。」
「うっ、」
思い切り、蹴飛ばしてやった。
大勢を崩して倒れ込む片割れを押し倒して馬乗りになると、片割れはただその拳を素直に顔面に受け入れて、抵抗する素振りも無かった。
「なんだか久しぶりにお前の顔、見たから。なんかさ、」「は、気持ち悪いんだよ、お前……
死ねよ。お前みたいなクズ、
死ねばいいだろ。
早く死ねよ。
いいから死ねよ。
死ね、俺が殺してやる。
殺してやるからな、クソ野郎」
「はあ、はあ、本気じゃん、いたい、いたいよ、死んじゃう。はは、あはは、なあ、俺、死んじゃってもいいの」笑いながら、ずっと肩を震わせていた。「彼女に土下座して謝れよ。なあ」
「唯月には謝るよ、でも」
「頑なだな、馬鹿にしやがって。」
「死んだらいいんだな」
「そうだよ、お前なんか死ねばいい」
「そうだよな、俺なんか生まれなきゃよかったよな」
「……」
「迷惑ばっかりかけてきたよな、ずっと……」
「……」
「……なのに。なんで気付かなかったんだろう。なんでもっと早く気付けなかったんだろう」
後になって気付く。彼に、抵抗する気力すらなかったのだろうということに。「気持ち悪いのも、分かってる、」「でも俺、お前を傷付けようとか、迷惑かけたかったとか、そんなつもりなくて、」「……ただ、これからも……、
……、
………っ」
何かを言いたいのに、どうしても言えないのか、言葉を詰まらせる。よく見れば、彼の表情は酷く疲れていて、泣き腫らしたような目をしていた。「今日さ、なんの日か知ってる18回目の誕生日だよ。
だから、だからさ。
俺たち、もう一度、
あの頃みたいにさ、
そうだよ、一つに戻ろう、
唯月」
「お前、気がおかしくなったのか」4月2日。
ああ、忘れてたな。
どうでもよくてさ。
そんな日があったな。
俺たちの誕生日。
優真のカレンダーには、ちゃんと赤い丸がされている。ふと、目の端に映る。
片割れの部屋の隅に、17個の鶴の折り紙があった。
しわくちゃのものもあったが、どれも丁寧に折られており、状態が良かった。
一度破かれたものを、セロハンテープで止めたようなものもあった。
微かな記憶を辿る。
あれは、確かに、小さい頃両親から貰ったプレゼントと、それから。
俺が誕生日にプレゼントした物が包んであった包装紙だ。
『毎年丁寧に開けるよな』
『とっときたいじゃん』
『包装紙なんてとっておいて何になんだよ』
『別にいいじゃん』
……。『両親にはたくさん迷惑かけちゃったし。それに、俺、いつまで生きられるかわかんないからさ。渡せなくなってからじゃおせーよなって、あっはは。』お前は、いつも、楽しそうに笑ってるよな。
馬鹿みたいに脳天気でさ、うざかった。
でも、思えば無理に笑うことが多かったな。
周囲から心配されて生きてきたから、心配させないように元気な姿見せなきゃ……なんて、昔言ってたな。
俺は、優が羨ましかった。
俺は、
俺は。
両親に愛されてないって、誰からも愛されてないって、思っちゃったんだ。
父さんも母さんも、ずっと、病弱な優のことばかり見ていたから。
健康体でいたって何も良いことなんかないって。健康体になんかなりたくないって。お前のこと羨ましいって思っちゃったんだ、だって、お前みたいに身体が弱かったら俺も両親にもっと見てもらえて、周囲の人にもたくさん心配してもらえたのかなって。
でも、優は、優なりに、ずっと不安だったんじゃないか。俺は、ずっと自分ばかりが、ってそう思って、優の気持ちなんか、考えてあげられてなかったんだ。優真。「……げほっ、はあ、はあ、」
「……優真、最近よく息上がるな。大丈夫か?」
「ああ、へーき。いつものことだから」
お前はいつも元気そうだ。
……うるさいくらい元気で、めんどくさくて、よく笑ってた。
だから、時々、忘れそうになる。
優が何度も手術を繰り返していること。
今でも時々通院してるとは聞いてたけど。
お前はさ、覚えてないのかもしれないけど、父さんも母さんも、お前のことすごく大事にしてた。「ゆうくん、しっかりして」
「ママ……パパ……」
「優真、大丈夫だ。父さんも母さんもそばにいる」
「うん……」
父さんと母さんの不安そうな声で、只事じゃないって、当時はまだ幼かった自分でもすぐに状況を察したな。病院で入院してた時、手術後の容態が著しく悪化した時があった。「優、しんじゃうの、
……やだ、しなないで!」
病室内で思わず叫んで、ボロボロ涙が溢れて、視界がぼやけてく。ベッドに横になってる優は、俺の声を聞いて目を開けて、そうして酸素マスク越しに小さなかすれた声で反応する。必死に息をする度に胸部が激しく上下していた。「……泣かないで……」
「優、いなくならないで」
「いかない……いかないよ、どこにも」
「……俺、しなないよ。絶対に……死なないよ。」そういって、ゆっくり腕を伸ばして、ぎゅっと俺の手を掴んで笑ってくれた。その言葉通り、優真は、山場を越えた。そうして今、隣を歩いている。「そんなことあったっけ」
「あったよ、父さんも母さんも、お前のことすごく心配してたんだぞ」
「うん。でも、それこそ最初はさ、生きるのに必死すぎてさ。何回も死ぬかもなーって思ったことあるから、慣れちゃったっていうか」
心配だよ、正直。「……唯月どうした」
「いや……何も」
きっと、色んなことしたいんだろ。
やっておきたいこととかあるんだろ。
「お前さ、俺とばっかりいないで、他のやつとも仲良くしたら良いのに。行きたい場所とか、もっと色々、あるだろ」もっと色んな場所行って、色んなもの食って、それから。
こんな狭い場所にいるより、もっと色んな体験をして欲しいって思ったんだ。
……いや、それってなんか、まるで優が死んじゃうみたいじゃないか。「唯月が一緒にやってくれんの」
「え、俺が」
「うん」
「俺といたって大して楽しくないだろ。いつもの日常と変わらないし」
「それがいいんだよ。俺は楽しいよ、唯月とゲームしたりすんの」
「それ……楽しいか?」
「いいじゃん」
優の瞳と合う。
俺とは違う。それは深くて、綺麗な色をしている。
そうして、少し遠くを見るような淋しい笑顔だった。
「どこにもいかないって言っただろ」「それに俺さ、たぶん今の身体じゃあ、遠くには行けない」
「それでも良いかもって思わせてくれる居場所が、こんなにそばにあるってすごく有難いことなんだよ。」
優真はそんな時でも、どんな時でも、楽しそうだった。「……優、」死ねなんて、なんで俺は。
なんで俺はそんなこと言ってしまったんだ。
言っちゃいけなかった。優真は、いつでもそれが身近に存在していたから。何度も痛い思いをして、何度も苦しい思いをして、何度も生死を彷徨って、何度も、何度も何度も、諦めてしまいたくなったのかもしれないのに。俺は聞いちゃったんだ。
父さんと母さんと優真、三人で話してるのをドア越しに。
「余命宣告、されちゃった。このままだとまずいって。だから手術受けなきゃいけないって。」
「でも父さん母さん、唯月には内緒にしていて。」
「唯月は不器用だけど優しいんだ。だから、きっとすごく心配するから。」
「それにまだ、手術はしたくない。したら、入院が長引くかもしれないし。もう少しだけ先延ばしにして欲しいんだ。誕生日だってあるし、それに、唯月としたいこといっぱいある、から。」
なんでそんな重要なこと言わなかったんだ。
俺に秘密にしてることがあるのは、お前の方なのに。
俺は、一人になるのか。
一人が怖いのは、優真がいなくなって怖いのは。
本当は、俺の方だ。
怖くなって、それで、人と関わろうと頑張った。あまり、得意じゃなかったけど。
これから先、お前がいなくてもいいように。
いなくなるな。
いなくならないでくれ。
「はは。あはは。はは、は、はあ、はあ、」息を切らして、笑う。
優の瞳から涙が流れて、頬から顔の輪郭を伝う。
「……優、……俺、こんなこと言いたかったわけじゃなくて、」謝らないと。
早く。
なのに、
なんで、声が出ないんだ。
「18歳の、誕生日プレゼント
これはきっと、今までで一番最高。
唯月、ねえ  見て
みてて  みててよ……っ
俺が、俺がっ  死ぬところをさ」優はいつもみたいに笑って。泣きながら笑ってた。もう、とっくに壊れてた。そうしてベッドの下に手を伸ばすと、ずっと前から用意されてたであったであろう刃物を、首に躊躇いなく充てがい───「優真、」「ま、待って、」唯月としたいことがあるんだよ。「唯月、今度の休日一緒にさ、」
「ごめん、その日は用事ある」
「そっか。じゃあこの日とか」
「その日も忙しくて、悪い」
「……ううん、いいよ。仕方がないよ。じゃあさ、忙しくない日あったら教えて」
「分かった」
露骨に、避けられてる気がする。時間がない。こんな時に限って身体もなんだかあまり調子良くない。父さんと母さんに迷惑かけてる。でも、一回だけでいいから唯月と、したい。「今度の週末、父さんも母さんもいないって」
「そうか」
「興味、ないか」
「……で、話しはそれだけか」
「うん、話しかけてごめん」
最近ずっと、一人ですることが多くなった。回数も増えた。唯月としたかったけど、たぶん、できそうにない。……夜中、唯月が寝たのを見計らって部屋に入る。ベッドの前で、手に包丁を握って。「酷いよ、唯月」
「小さい頃、一人にしないでって泣いて俺に言ってきたのは唯月の方なのに。唯月は、俺を一人にするんだな」
「大丈夫、置いてかないよ。兄ちゃんも唯月を殺した後で死ぬから」
眠ってる間なら、苦しむのは一瞬のはず。首元に刃物をあてがう。すやすや寝息を立てる姿に涙が出そうになった。
小さい頃を思い出す。夜、ドアのノックする音で起きた。ドアを開けるとドアの前で枕を抱きしめてる小さい唯月がいた。
「どうした」
「優が死ぬ夢、みて……」
と、泣いてる姿が愛おしかった。「じゃあ今日は一緒に寝ようか」
「いいの?」
「うん」
「俺は死なないよ。兄ちゃんは強いんだよ。」
「ほんと?」
安心して俺の隣で眠ってた。しばらく一緒に寝てた。あの頃。「俺がいなくても、眠れるようになったんだ」「……そっか、よかった」一人でも大丈夫になったんだね。ごめんな、ごめん。酷いことしようとしてた。でも、唯月の寝顔見てたらもうしないって、こんなこと思うのやめようって思った。そうして、諦めて、隠すように刃物をベッドの下に入れた。「なあ、俺を一人にしないでよ。」「俺の近くにいてよ」「唯月、」「寂しいよ。」17個の折り紙と共に
部屋には、遺書があった。
『父さん母さん俺を産んで、ここまで育ててくれてありがとう。
ずっと大好きだよ。長生きしてね。
唯月寂しくないように
先で待ってる
だから
あいにきて
あいしてる』一部文字が、滲んでいた。「事件ですか、事故ですか。何がありましたか?」
「……人が、首から血を流して倒れています。」
「それはいつですか?」
「三十分くらい、前です。」
「場所はどこですか?」
「実家です。東月影区○○番地です。付近に幼稚園や、大きな病院があります。」
「どのような状況ですか?」
「凶器は包丁です。自室で、血を流して倒れてます。」
「……あなたのお名前は?犯人は目撃しましたか?」「……、」「もしもし?」「……俺が、」「……音声が乱れていて」「……」「俺が、やりました。」優真はさ、
一つに戻りたいって言ってたけど、
俺たち、二卵性だから無理だよ。飛び散る赤色を今も覚えてる。赤色が嫌いだった。45話 《04世界》
視点a TRUE END あいにきて
公開  2024.10

46「僕らが生まれた日の誕生花はなあに。ヒントは昔母さんが教えてくれたよ」「そんな昔のこと、覚えてない」
「はは。そっかそうだよな。それでいいよ、偉月は」
本当は、覚えてた。だけどその時は、どうしてかその言葉を口走っていた。数年前の会話なのに、今でもずっと、あの時後悔した記憶だけが繰り返し再生される。どうしてこんなことばかり。今もずっと鮮明に覚えているのだろう。俺が選んだ選択の数々が少しずつ歪みを生んだような。そうだな、あのとき覚えてるって、言えばよかった。ある日の帰り道。「優真は将来の夢とかあるのか」そんな話題になったときだ。「将来の夢かあ、なんだろう」うーんと悩んだ後で、あっと声を上げる。「ありふれた幸せな家庭を築きたいな。」そう言ってお前は笑ってたな。「じゃあ長生きしなきゃな。その子置いてくことになるぞ」
「ってやっぱないな。俺、体調崩しがちだし、自分の人生もまともにできないのに他人の人生巻き込めないしなー」
「なんだよそれ」優真は俺の方へ向き直して、「子供、抱っこしたいなあって、偉月の子供」
「俺の?  ……嫌だ。」
「だよな」
そうしてまたいつも遠い目で諦めたような笑顔を浮かべる。小学生の頃の話だ。俺の双子の兄、優真は生まれつき病弱だった。それでも体の健康のために医者から過度な運動を避けるように言われていた。しかし、適度な運動はしても良いと、無理のない範囲でなら勧められていた。
というのも、優真は昔からスポーツするのが好きだったからだ。だからきっと、様子見をしていたのだろうと思うけれど。
優真はそれを聞いてスポーツを続けていたみたいだったけど、チームの人と何度もいざこざを起こしていた。「体弱いやつはさ、チームに要らないよな」
「邪魔なんだよ、学校休んでばかりだし」
「足引っ張ってんの分からないんだろうな」
「親の教育どうなってんだろ」
「こっちだって遊びじゃねぇのに」
下校中にチームメイトから、
「足手まといのくせに、周囲の大人たちから庇われてる。大人は現場の現状を知らないから、押し付けられて迷惑している」と言われていた。
「病人にスポーツやらせる親がおかしい」と言われると、優真は固く閉ざしていた。次に口を開いた時は「父さんと母さんの悪口言わないで!俺がわがまま言っただけだから」そう言いながら、ボロボロ泣いていた。優真は家族のことを悪く言われるのがものすごく嫌だったみたいで喧嘩になって、俺が仲裁役に回った。その時、「親にも弟にも似ていない」と、それを聞いた途端、優真は我に返ったのか冷静になり、とぼとぼ帰路を一人で帰っていった。背中が寂しそうだった。俺は小さい頃から一緒だったからあまり気にしたことなかった、他人の目にどう映ってるかなんて。だけど、言われて初めて少し自覚した。
確かに変だった。俺と優真は、何かが。
「優真、クラブやめたのか」
「うん、ぼくゲームしてる方が楽しい」
「そっか」
そう言ってた。でも。「……ッ、」「……うう、くやしい、」「くやしいよお」そう呟いて、一人でずっと泣いてた。優真……。優真があんなに泣いてるところ初めて見たから。諦めることが多い人生は、苦しいと、子供ながら思った。なのに俺は。こんなにもたくさんの選択肢を与えられてるのに……俺は、「父さん母さん、俺、宇宙飛行士になるのやめる。医者になって、優真を治すよ。」そう言ったんだったけな。お前のいない世界を生きていかなきゃならないなんて嫌だ。だから今よりもっと勉強頑張らなきゃ。
俺はもっと頑張らなきゃいけないから。
何も知らない優真は俺のこと遊びに誘ってくる。
遊びたい。けど、遊んでられない。図鑑はいつしか埃を被った。父さんや母さんの前では他に好きなものがある熱中できる分野があるとあっけらかんとしていたけど、優真が悔しいと一人泣いていたのを、俺は知ってる。やりたいことすらできない。諦めることの多い人生は子供ながらに辛いだろうと感じたことは今でも忘れられない。
そうだ。今も、そう思う。優真はいつも諦めているような笑顔を浮かべる。
だから俺は。今ある夢を諦めて、医者になろうと勉強した。絶対に治すと決めたんだ。
でも、もし、間に合わなかったら、どうしよう。「偉月くんって真面目でしっかりしてるよね」
「確かに」
「でも、俺がいないとぐずぐず泣き出してさ、一人で眠れなかったんだよ、すごいかわいいだろ」「は、やめろよ」
「えっ」
「変なこと言うなよ!」
顔が熱い。周囲の視線が刺さる。周囲を見ると、その様子をくすくす笑っていた。「ごめん」咄嗟に口を閉ざす。あの時のことを思い出すと本当に腹が立つ。その後の帰り道、優真を捕まえて再度問い詰める。優真は口先で謝るばかりで反省なんかしていない。その態度に、苛立ちが積もる。「なんであんなこと、みんなの前でいうんだよ」
「俺はただ……かわいいところもあるよってみんなに知ってもらいたかったから」
「みんなから馬鹿にされたんだぞ!明日どんな顔して学校行けばいいんだよ。謝っても許さないからな。」
「ごめんな、偉月。」優真はすごく悲しそうな顔をしていた。
優真は悪い奴じゃないけど、度々空気が読めない発言をすることがあった。
そして。少し喉が渇いてリビングに向かう時、足を止める。優真が両親と三人で話していた。
盗み聞きするつもりはない。でも、入れそうな雰囲気でもなかった。
「父さん、母さん。」努力したって無意味だ。俺だけ普通を求められるのに。優真は生きてるだけでも褒められる。でも、これも、仕方ない。優真は病気がちだったし。両親が心配になる気持ちも分かるから。……ああ、本当に邪魔だった。「父さん、母さん……」「入院は……まだ……偉月には、内緒にしてて……」なんだよ、それ。「きっとすごく心配するから」……。「俺のわがままで、二人に迷惑かけてごめんなさい。でも、偉月に伝えたいこと、したいことたくさんあって。18歳の誕生日までにはどうにかするから……。」「うん。わかってるけど……それまでどうか待って欲しくて……先生にも伝えておいて。」俺は優真から一体何を伝えられるんだ。
そう思ったら、途端に怖くなった。
お前は、いつも重要なときだけ俺を頼ってなんかくれなかった。俺は弟だから?頼りないから?……そうだよな。双子だからって、なんでも共有する必要なんてないよな。お前が俺に、そうしたように。「偉月さ、俺のあげたプラネタリウム見てない?」
「見てない」
「……あれ、偉月。星に興味なくなった?将来の夢宇宙飛行士じゃなかった?ぼろぼろになるまで天体図鑑見てただろ。」「お前には関係ないだろ。そもそも、あんな子供騙しの偽物の星なんかに俺は興味ない。そう前に言っただろ。」「ごめん……」「でも、家でさ二人で見れたらいいなって思ったんだって外でって思ってはいるけど、外出先で発作起きやすいしさ、俺」
「はあ。じゃああれはお前の為の誕生日プレゼントだったんだな」
「俺じゃなくてもさ、こう、恋人作って見るとか色んな用途があっていいじゃん」
「……はあ。家で?見た後何するんだよ」
「……。あるよ、色々……。」
「……」会話はそこで一度途切れた。
思えば度々、優真から誘われることがあった。
「偉月、あのさ。次の休日さ、父さんと母さん結婚記念日で家にいないだろ。久しぶりに二人でなんかしない?本当はさ、偉月と二人でさ、それ見たかったんだけどさ」
「俺は見たくない」
「……っていうと思ったから、ゲームしない?偉月がくれたから。」
「……ゲームなんかいつでもできるだろ。なんで俺とやりたがるんだよ。どうせお前の方が強くてつまんないし。お前はそりゃずっと家にいてゲームばっかりしてられるもんな」
「偉月、」
でも、俺は全て断っていた。
一人で勝手にやってくれよ、そう、思ってた。
お前と違って、俺は遊んでいられないんだよ。
自分で決めたことなのにそんなことを思った。
「ああ、羨ましいな。お前は暢気にゲームができて。両親から普通以上を求められない。ただ生きてるだけで褒められるからな、お前は」「すごくわかるよ、でも、俺だって、スポーツ続けたかったよ」俺はハッとした。言ってはいけないことを言ったと思った。「……。」「でもどうせ俺がいたってみんなに迷惑かけるから……。俺さ、偉月がずっと頑張ってることも知ってるし。
偉月は、才能があるから多くを求められるんだよ
俺みたいに諦められてると誰からも何も期待されることも求められることなくなるんだ」
「俺、さっき言ったこと謝る、ごめん。」「なんで?やめてよ」優真はずっと、笑っていた。「……まあでも確かにゲームだとさすがに俺が有利になっちゃうよな……それなら……まあ、俺は……別のこと、するでもいいけど……」
「別のことって、他に何があるんだよ」
「たぶんこれなら家で、二人で……そのできるかもっていうものがあるんだけど……俺も初めてだし、唯月も初めてだろ、たぶん。偉月が興味あるなら……俺は……」「……。どうした、優真、ボーッとして」「勘違いして欲しくないけど俺は偉月とさ、一緒にいられたら何をするでも楽しめるから。俺は楽しいと思う……偉月が楽しいかは分からないけど」
「だから何するんだよ」
「何……なんだと思う」
「は、いや、なんで隠すんだよ……。めんどくさいな。」
「偉月のこと楽しめさせられる自信、結構ある。俺なりに勉強したから」
優真はそんなこと言いつつ、それがなんなのか全然言うつもりがなさそうだった。「なんだよもうさっきから。なんでお前と貴重な時間潰してまで一緒に過ごさないといけないんだよ」
「ごめん。あんまり良い提案じゃなかったね」
「それよりも、偉月に伝えたいことがあってさ」
「俺に?そんなの今伝えてくれよ」
「今はその、ちょっと、」
「……ここじゃ言えないのか?」
「…….うん」
「仕方ないな……でも悪い。そもそもその日、用事あるから別の日でもいいか?」
「……おっけーわかった。じゃあいつなら空いてる」
「分からない。空いてる日あったら教える」
「うん。待ってる」お前はいいよな
求められるハードルが低いから
遊んでいたって何したって
ただ生きてるだけで
褒められるんだから
一生ゲームしてればいいだろ
俺は忙しいんだよ
……ごめん、邪魔したかった
わけじゃなくて
たまには息抜きしても
いいんじゃないかなって
頑張りすぎてるから……
実は一緒にしたくて
買ってるんだいつも
最近、ずっと疲れた顔してる
唯月に笑って欲しくてさ
それに、唯月は周りから期待されてるから
求められるハードルだって、高いんだよ
だからみんな厳しいんだ
頭が良い唯月のこと、すごく期待してるんだ
でも諦められて、誰からも期待されないやつは
周りから優しくされるんだ、俺みたいにさ
みんな期待してないんだよ、俺のこと
「あいつの両親どうにかしてるよな」「足手まといなのになんでここにいられるんだよ」「すぐに息切れるしさ、向いてないよな」「病気持ちは大人から優しくされるんだよ」「だから、こっちの状況なんか見もしない」「和気あいあいしたいならどっかいけよ」「こっちは本気でやってるのに」「チームからいらない」「どっかいけばいいのに」「お母さん、クラブ。明日から行くの、やめるよ。俺ゲームの方が好きだから。一人でゲームすんの楽しいし。」「あら、そうなの?あんなに好きだったのに」
「うん」
「ゆうちゃんの好きなことするのが一番よ
ママはゆうちゃんの味方」
「うん」うう、悔しい、悔しいよ……っ子供ながらに諦めることが多い人生は
苦しいと思った
俺はこんなにも選択肢を与えられてる
だから俺は宇宙飛行士の夢をやめて
医者を目指す為に本格的に勉強した
本当はスポーツが好きだったけど
生まれつき病弱だったから
入院することも多くて、だから
ゲームしかできなかったんだろう
優真、ごめん。
俺、酷いこと言った
確かに疲れてる
悪い、今日は休む
じゃあ昔みたいに俺に甘えてもいいよ
俺は唯月のお兄ちゃんだから
……、大丈夫だもうそんな歳じゃないし……俺だってしたいよ、でも。間に合わなきゃ、意味がない。早くしなきゃいけないのにいくら頑張ったって
間に合わなきゃ、意味がないし
間に合わなかったらどうしよう
優真がいなくなったら、どうしよう。「ひどいよ、一人にしないでって……俺に泣きついてたのは偉月の方なのに。偉月は俺を一人にするんだろ……。」「小さい頃はさ、一緒に寝なきゃ、眠れなくってさ、俺が入院した日も俺が死ぬんじゃないかって不安で泣いてたのにさ」「今じゃ、少し早く生まれただけで兄貴面するなとか言ってきてさあ、ほんとに、本当にさ……」「でも、もう一人でも眠れるようになったんだ」「そっか、よかった。
偉月は俺がいなくてももう、大丈夫なんだ!」
「ごめんなあ、酷いこと考えて」「一人で死ぬのも殺すのも
やっぱ、俺、すげぇ、怖い
はは、無理だごめん、ごめんな」「かわいいやつだよ、今でも、変わらず。
そうだよ、俺の弟は偉月だけだよ」
兄弟同士の揉め事だろうな
自殺である証拠があるのに
彼、ずっと俺がやりました
としか供述しなくてさ
「誕生日か、誕生日は彼女と過ごすから」「え、そう、なんだ。へえ…………え、いつからいたのなんで教えてくれなかったの」「なあ、双子だからってなんでも共有しないといけないのか?双子だからってずっとこの先も一緒にいなきゃいけないのか。いい加減大人になれよ、お前いつまで続けるんだよこんなこと、教えてくれよ」「えっと……、いつまで……た、たしかに……俺……なんかすげー変なこと言ってた本当に……、」「あのさ、偉月、俺さ」「こんなこと、言いたかった
わけじゃなくて……、」
「偉月を困らせたかった
わけじゃ、なくて……。」
「本当に、ごめんない」「よかったじゃん
本当に、おめでとう!
嬉しいんだよ、俺』
「俺も彼女欲しいなー
いいなー……、偉月は」
「ねえきもいこと言って
ほんとにごめん、だから」
「だから、偉月ちょっと、待ってよ……あははっ」「偉月、お兄ちゃんいなくても大丈夫?」「一人でも夜ちゃんと眠れてる?」「お兄ちゃん、心配なんだよ」「俺は一人でも平気だから。もう、大丈夫だから……だから、もう優真は自由に生きてくれよ。これから先は……俺の為じゃなくて自分の為にさ。」「なんでよ、嫌だよ。大丈夫だなんて、さみしいこと言わないでよ」「……」「俺さ、偉月がいなくなってから、なんの為に、ここまで頑張って生きてたのか、分からなくなっちゃったんだよ……」「……」「偉月はお兄ちゃんのこと、嫌いになっちゃったの」「……」「まるでさ、今まであったことなんか全部なかったことみたいにさ……やっぱり俺じゃだめだった?」「……」「あの時、さみしいよって偉月に言ってたら偉月は俺の傍いてくれたの。泣いて縋ればよかったの?一人じゃ生きられないって。わがまま言えばよかったの」「……」「そんなこと言ったらきっと、困ったように笑うんでしょ」「……」「もういいよ俺なんか、どうせ……誰にも必要となんかされないしこんなことになるなら、こんな未来なら
初めから、いらなかったのに!あの時死んでいればよかったよ!」
「……」「どうして偉月は話し合いしてくれないの。大事な時に限って、逃げてばかりだしさ。俺の顔すら見てくれないんだからさ。」「……」「もう、嫌いだよ、偉月なんか、嫌い。」「……」「そんなんならお兄ちゃん一人で生きるからいいよ。
どっか行きなよ、もう、顔も見たくない。」
「……」「偉月はお兄ちゃんいなくてもいいの無理だよね、そんなの。小さい頃、兄ちゃんが入院する度に『ひとりにしないで』って泣いてたくせに。
昔のことすぎて忘れちゃった?
それなのに偉月は俺を一人にするの?」「……」「兄ちゃんは、偉月のこと、一人にしないようにしてたじゃんかぁ……!!!」「……」「ほら、どうせ言ったところで面倒くさいって顔して傍になんかいてくれないくせにさ……だからずっとずっと、言わないようにしてたのに!」「……」「……」「……偉月?どこにいるの。」「……」「……、暗いよ何も見えない」「……」「偉月、いるんでしょ」「……」「一人にしないでよ」「父さん、母さん」「……、いないの、誰もいないの」「どうしてみんな俺を一人にするの」「俺は、大切な家族じゃないの」「何も見えない」「何も聞こえないよ」「うう、さみしいよ……」「さみしい…………」どうして何も見えないのどうして、どうして、どうして。「優真!!!」「今、今救急車呼んだからな……」「頼む、いなくならないでくれ!」「……優真!!」「なあ、お前、馬鹿!本当に、なにしてんだよ!
はあ、はあ、救急車、早く、……早くしてくれ!」
「今すぐ止血してやるから……っ
大丈夫だ、優真。」
ごめんね。やっとこっち見てくれた。って思ったんだ。「俺、病気には殺されたくないんだ」「……優真」「そうなった時は偉月が俺を殺してよ」「無理なこと言うな」「分かってる。世界がそれを許してくれない。お前の人生めちゃくちゃになるようなことはさせないよ。だから、ずっと考えてるんだよ。どうしようかなって」死ぬまでこの思考はやめられないどうしたらよかったのかなきっと君を幸せにできないどうしたら、よかったのかな次はちゃんと人を愛せるかな僕らは、奪い合ってなんか、いなかった。
ずっとその居場所を譲り合っていたんだ。
押し付け合うように。
繰り返し、繰り返し……あれから偉月から何もないな。結局何も話せてないし。偉月に避けられてる気がする。父さんも母さんもいない。偉月は俺よりもしっかりしてるしたくさん頑張ってる仕方ないか……「……」「偉月、うう、」優真の苦しそうな声がするまさか、
そんな、
発作か?倒れてないよな?「う、……はあ、はあ、」優真?大丈夫か、優真、いーちゃんえ?懐かしい名前。「はあ、はあ、あっ、ああ。いーちゃん、う、うう、ナカ、すごい気持ちい……きもちい……でる……!
ナカに」
……は、……ッ、……気持ち悪い。俺はあの日から優真を避けていたような気もする。
俺はお前のこときっと幸せにできない。
「なんか、最近どした?  お兄ちゃんに言ってみ」
「いや、別に何も」
「いーちゃん」あの時のことを思い出す。「それ、きもいからやめろって」「え」「兄貴面するのも気持ち悪いんだよ。大して歳も変わらないのに。そういうの全部やめろって何回も言わせるなよ、少し先に生まれたぐらいでさ、お前のどこが兄なんだよ」「ごめん、偉月……」あの時の優真が頭に過ぎる。ああ、もう、頭の中から消えてくれよ!!気持ち悪い!!気持ち悪いんだよただ遊んで生きてるだけで
褒められて、いいよな。
俺はな、お前みたいに呑気に
遊んでなんかいられないんだよ
父さん母さん、唯月には
おねがい、内緒にしてて。
優しいから、きっとすごく
心配すると思う。
俺、足手まといだって言われたんだ
お前はチームには要らないって
病人だから迷惑だったんだよ。
何より家族のこと馬鹿にされて
悔しかった。
唯月は、みんなから期待されてる
から、叱られることもあるんだよ。
最初から何も期待なんかされてない
奴は、叱られることもないんだよ。
……俺みたいにさ。みんな、唯月の
こと、すごく、期待してるんだよ。
でも唯月はその期待に応えようとして
頑張りすぎちゃうんだよね。だから
こそたまには休んで欲しいなって、
思うから。息抜きって大切だからさ。
はあ、……はあ、……っ、
いーちゃんのナカ
きもちい……、でるっ
はあ♡気持ち悪いな、兄ちゃん
弟に欲情して、馬鹿だなほんと
頭悪いし、ゲームばっかしてさ
なのに自慰行為しかしないんだ
生きてる価値ないんだよ、お前
気持ち悪ぃ、役立たず♡
なあ。早くイけよ、イけイけ
そのまま死ねよ(全て優真の妄想)
自慰行為してる声が聞こえて
きて気持ち悪いんだけど、なあ
本当に鳥肌立つ、気持ち悪いん
だよお前、早く死んでくれよ。
さっさと死ねよ。気持ち悪い、
気持ち悪いんだよ。死ねよお前
なんか。今すぐに死ねよ。
身内に化物がいるんだけど笑
こんなのが兄弟ってやばいな
俺なにか駄目なことしたのか?
双子だからってなんでも共有
し合わなきゃいけないのか?
双子だからって、いつまでも
一緒ってわけにもいかないだろ。
なあ、気持ち悪いんだよ、お前。
それいつまで続けるつもりだよ。
いい加減、大人になってくれよ。
先に頼ってくれなかったのは
お前の方なのに。
そうだよな。双子だからって
なんでも共有する必要なんか
ない。隠し事だって、して
いいんだもんな。お前が俺に
したみたいにさ。
唯月に伝えたいことがあるんだけど。
今度の土曜、父さん母さん結婚記念日
でさ、家にいないじゃん。だから……、
……ううん、やっぱり、なんでもない。
お兄ちゃんに一人にしないでって
泣くから、俺はずっとお前のこと
一人にしないようにしてたのに。
唯月は俺を一人にするのか……
あなたが俺がやりました。なあどうして俺だけ違うの
どうしてこの顔で産んだの
同じ顔で産まれてきたかった
唯月と同じになりたかった!
母さんが不倫してくれてよかった
この馬鹿の世話を、してるだけで
俺の評価はどんどん上がっていく
父さんも何も言わないんだ。そう、
可哀想だから。誰にも似てなくて。
目を閉じていても光は認識できる
瞼に微かに通る光で朝を認識する
なんの為にここまで、頑張って、
生きてきたのか、もう、なんにも、
分からなくなっちゃったんだよ。
お前が一人にならないように
するにはどうしたらいいかな
ってずっと、考えちゃうんだ。
俺が入院する度にさ、唯月の、
すごく不安そうな、悲しい顔が
頭から離れないんだ。
ごめんね、頼りないお兄ちゃんで
唯月、もう一人で眠れるように
なったんだな。唯月にはもう、
俺がいなくても、いいんだ。
そっか。よかった。……よかった。
じゃあどうしたらよかったの。
わがまま、言えばよかったの。
ゲームは、唯月としたいから。
プラネタリウムも、唯月と……
いや、もちろん恋人ができたら家に
呼んで一緒に見たら楽しそうだなって
プラネタリウム?ああ、
あんな、ホログラムの
偽物の星に興味なんかない
んだって、言ってるだろ。
俺は何を伝えられるのだろう。
間に合わなきゃ意味がない。
諦めることの多い人生は
どれほど辛いのだろうと
子供ながらにそう、思った
求められる最低ラインが低い
ってお前は楽でいいよな
お前はなんもできなくたって
周りから愛されるもんな
……違っ、分かってあげられ
なくて、ごめん
俺は唯月の双子の
兄ちゃんなのに
きっと、父さんも母さんも
みんな唯月のこと、すごく
期待してるんだよ
多くを求められることだって
それで、叱られることだって
あるのかもしれないけど
……端から期待なんか
されてない奴はさ、誰にも
何も求められないんだ
だから、叱られることも
ないんだ、俺みたいにさ。
それにどうしてか
みんなが俺にすごく
気遣ってるのが
分かって、辛いんだ
俺がこんな見た目で
病気がちだからかな
でも唯月はちいちゃい
頃から俺に気なんか
遣わないだろ
だから、実はさ、それが
すごく嬉しかったんだ
みんなとおんなじように
扱ってくれたのがさ
ねえ父さんも母さんも
もちろん、俺も
唯月のこと、大好きだよ
それは信じて欲しいんだ
優真、
そうだと……いいな
……ごめん。
誰の記憶にも残らないまま
この世界にいたことすら
何もなかったみたいに
なあ、優真。お前は、俺を一切頼ってきてなんかくれなかったよな。どうせお前にとって俺は頼りないんだろ頼りない弟なんだろ。ずっとずっとこれから先も。俺はお前を兄弟として、双子として、信頼して頼ったことがあるのに、相談だってしてるのに。お前は俺のこと頼りにしてくれたことなんか一度もなかった。だから俺は弟でなんか、いたくなかったんだ……俺は、ずっとお前の隣に立ちたかった、力になりたかったもう、兄でなんかいなくていいんだって
困ってることがあるから聞いてくれって
お前の方からそう言ってくれるって
それで、ようやく少しだけ俺のこと
頼りにしてくれるんじゃないかって
お前の方だろ、隠し事してるのは。
先に隠し事してたのはお前の方だ。
父さんと母さんには言って、なんで大切なことに限っていつもいつも  俺にだけ言ってはくれないんだよ手術するんだろ、聞いたんだ。たまたま  廊下を通った時だそんなことで俺が泣くと思ったのか?
お兄ちゃんは死なないんだっけな?
お前の口癖だろ、なんとか言えよ。さっきから  黙ってないでさ。
そういうところが昔から大嫌いだった。ちょっと先に生まれただけのくせして兄貴面してくんじゃねえよ。お前がいなくても、平気だって大丈夫だって安心させることができたら……。少しは俺のこと対等に見てくれたんじゃないかって思ってたお前は俺を安心させたかったんだよな。不安にさせたくなかったんだよな。分かってんだよそんなの。そうじゃ、なくて……俺は……ッ。……お前がいなくたって俺は平気なんだよだからお前はお前の人生を大切にしてくれよもう俺の為じゃなくて、これから自分の為に
自由に生きてくれよ、頼むから……
……お前が、幸せなら
俺はそれでよかっ……
唯月、
ごめ……げほっ、がっ、
今まで
ごめん……
優真……!唯月、お兄ちゃんいなくても大丈夫?
一人でも夜ちゃんと眠れてる?
お兄ちゃん、ずっと心配なんだよ
今日もね、どうしたら唯月が
さみしい思いしないか考えてたよ
これも、小さい頃からの癖。俺は一人でも、平気だから。
もう、大丈夫だからだから。
もう優真は自由に生きてくれよ。
これから先は俺の為じゃなくて
自分の為に生きて欲しい。
……なんでよ、嫌だよ。
一人でも大丈夫だなんて
さみしいこと言わないでよ。
俺、唯月がいなくなってから
なんの為にここまで頑張って
生きてきたのか、分からなく
なっちゃったんだよ
あの時、さみしいよって
唯月に言ってたら
唯月は俺の傍いてくれたの
泣いて縋ればよかったの?
一人じゃ生きられないって
わがまま言えばよかったの?
そんなこと言ったらきっと
困ったように笑うんでしょ
兄ちゃんが入院する度にさ
ひとりにしないでって泣いてたんだよ
昔のことだからもう忘れちゃった?
小さい唯月がさみしいって泣くから
ずっとさみしい思いさせたくない
って思って俺は一緒にいたんだよ
それなのに唯月は俺を一人にするの……
ずっとずっと兄ちゃんは、唯月のこと、
一人にしないようにしてたじゃんかぁ……
唯月はお兄ちゃんのこと嫌いになっちゃったの
さみしい思いさせないようにしてたじゃんか
なのになんで?どうしてかちゃんと説明してよ
ほら、どうせ言ったところで
面倒くさいって顔して傍になんか
いてくれないくせにさ……
だからずっとずっと、
言わないように我慢してたのに
もう生きていたくない。
遠くになんか行けないから。
どうして唯月は話し合いしてくれないの。
大事な時に限って、逃げてばかりだしさ。
俺の顔すら見てくれないんだからさ。
もう、嫌いだよ、唯月なんか、嫌い。
そんなんならお兄ちゃん一人で生きるからいいよ。
どっか行きなよ、もう、顔も見たくない。
もういいよ俺なんか、どうせ
誰にも必要となんかされないし
こんなことになるなら、こんな未来なら
初めから、いらなかったのに!
あの時死んでいればよかったよ!
どうして俺を生かしたの
俺のこと長く苦しめたいから?
好きなスポーツだって足手まといだって諦めるしかなかった!
こんな体じゃ何一つ自由にできなかった!
毎日痛くて苦しかったのに!
本当は家族みんな俺のこと邪魔だって
思ってるんでしょ……
ほんとは俺なんかいなければよかったって!
……唯月?どこにいるの
……、暗いよ何も見えない
一人にしないでよ
父さん、母さん……あれ……
……、いないの、誰もいないの?
どうしてみんな俺を一人にするの
俺は、生まれてないから
家族じゃないの
うう、さみしいよ……
さみしい…………
俺は兄じゃなくて、優真として頼ってた
病気とかそんなの関係なく、お前を見てた
でもお前は俺が弟だからっていつも俺には何も頼りになんかくれないんだ
お前の方なんだよ、いつもそうやって笑ってヘラヘラしやがって
うう
俺はそんなに頼りないのかよ
違う
俺が弟じゃなかったら頼ってたんだ
どうして俺はお前の弟なだけでそれ以上にもそれ以下にもなれないんだよ
少し生まれたくらいで兄貴面すんなって言ってんだよ何もできないくせに!
うああ
ごめんなさい
迷惑かけたくなかった
唯月に迷惑かけるのは嫌だったんだ
別にいい
いーちゃん……じゃなかった、唯月
まあ、なんでもいい
唯月のこと迷惑かけたくなかった…なあ、双子だからって一緒にいなきゃ
いけないのかよ。
なんでも共有しなきゃいけない?
いつまで一緒にいるつもりなんだよ
両親になんて言うつもりだよ
いい加減大人になってくれよ
いつまでも一緒にいられるわけじゃないんだよ
もう、子供じゃないんだよ、恥ずかしい
確かに、俺
変なこと言ってた
唯月はしっかりしてる
なのに俺、何も先のこと
考えられてなかったかも
ごめん
唯月は俺の代わりに
両親を安心させようと
頑張ってる
恥ずかしいよな
双子のましてや男同士とか
女の子だったら違ったかな
誰にも、祝福されないかもな
いいなー唯月は
彼女いて
俺も彼女欲しい
小さい頃は唯月よく泣いてたよな
俺が入院する度にさ
優真がいなくなっちゃう夢見て
泣き虫だなあ、病室でも泣いてたじゃん
唯月、一緒に寝るか
大丈夫お兄ちゃんは強いから
死なないよ
でも、もう
唯月は、俺がいなくても
眠れるようになったんだ
もう俺がいなくても
大丈夫になったんだ
よかった。全然大丈夫じゃないって言えたらよかった父さん母さん100点取れたんだよ
何も努力してなくてもお前ばかり愛された
お前は病弱だから
いいよなお前は
俺は両親から普通以上を求められるのに
お前は病気だからって何の努力をしなくても
生きてるだけで周りにちやほやされる!!
なんでもかんでも許される!!
ずっとずっと嫌いだったんだよ!!
ただボーッと生きてるだけで愛されて!!
心配されて!!
双子なのに俺とお前はこんなにも違う!!
ムカつくんだよお前!!
お前さえいなければ俺は!!
知ってたよ
ずっとずっと我慢してくれてたことも
唯月の苦労を知ったら何も言えなくなる
ごめんな
もう、それしか言えなくて
俺がいなければ唯月が苦しい思い
することもなかったのかなって
思うから
違う、こんなこと言いたかったわけじゃ
なくて……
優真だってこんな身体で生まれたかった
わけじゃないのもわかってるんだ……
ううん、嬉しかったんだ
面と向かって言われるの
腫れ物みたいに扱われる
のがずっと嫌だったんだ
俺は違うんだって再確認
するからさ
唯月にそう言われて
双子ってこうだって
思った
俺たち喧嘩しないだろ、だから
ずっとしたかったんだよ、兄弟喧嘩!
言いたいこと、言い合いたかった。
唯月が、何も言わずに
いなくなる方が嫌だったと思う
でもな、俺
唯月の嫌いなところ一つもなくてさ
双子なのに俺よりもずっとずっと
すごいって思うことばかりだから
でも……そうだな
人に頼らないところとか?
こんなお兄ちゃんだから頼りないよな
そりゃしっかりしなきゃって思うかな
そんなこと、ない……
さっきは、ごめん……俺……
優真にいなくなれなんて
思ってない
唯月……ほんと、
愛おしいなあ、お前は
はあ?
ううん。
「唯月」お兄ちゃんいなくても大丈夫?
一人でも夜ちゃんと眠れてる?
お兄ちゃん、心配でさ
どうしたら唯月が
一人にならないか
ずっと考えてる。
昔からの癖でさ
なあ、俺は一人でも平気だから
もう、大丈夫だから……
だから、もう唯月は
自由に生きてほしい
これから先は……
俺の為じゃなくて
自分の為にさ
俺は、お前を治す為に医者を目指したんだ!
そんなこと言うなよ、お前が先に諦めたら、
俺……俺は……、
……もう、いいや。
もういいって。
もうしんどいって、はは。
俺のことなんか忘れてよ。
お前のこと忘れさせてよ。
もう、全部なかったことになったっていいから他人同士でいられるように
もう二度と会わないように
絶対に会えない、遠い遠い場所なら。
お前も、俺も、多分
会いにいこうとするよ。
なんでか、分かるんだよ。
なんとなく分かるんだ
そんなの、無理だって
嘘をついてる時、お前はよく笑う
お前は昔から本当に笑うのが下手なんだな
思ってないだろ、化野。
お前は俺に会いたかったって言ってただろ
あの時、お前はまた下手な笑顔をしてた
いや、別の感情が入り混じってる時の顔してた
やめてよ、そういうの46話 《04世界》
視点i TRUE END いかないで
公開  2024.10